2026.07.11

中国市場の急減で変わる大阪インバウンド

2026年、ホテルが取るべき次の一手

2026年の訪日市場は、一見すると成長が止まったようにも見えます。

2026年5月の訪日外客数は355万9,900人で、前年同月比3.6%減。1月から5月までの累計も1,793万6,000人となり、前年同期比1.1%減となりました。

しかし、実態は「インバウンド全体が弱くなった」という単純な話ではありません。

現在起きているのは、中国市場の急減と、それを補う形での韓国・台湾・東南アジア・欧米市場の成長です。

大阪のホテルにとって重要なのは、以前の需要構造が戻ることを待つのではなく、変化した市場に合わせて販売戦略を組み直すことです。


1.全国のインバウンドは「減少」ではなく「構造変化」

2026年5月の訪日外客数は、前年同月を3.6%下回りました。

一方で、国・地域別に見ると、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、インド、アメリカ、ドイツなど、多くの市場が前年を上回っています。19の市場では、5月として過去最高を記録しました。

主な増加率は以下のとおりです。

その一方、中国は前年同月比60.4%減となりました。

つまり、全国のインバウンド需要が一律に落ち込んでいるのではありません。

中国市場の減少幅が大きいため、成長している他市場の増加分が全体の数字に表れにくくなっているのが現在の状況です。

日本のインバウンド市場は、中国への依存度が高い構造から、複数市場で支える分散型の構造へと移行しつつあります。


2.大阪も中国減少の影響を大きく受けている

大阪観光局の推計では、2026年5月に大阪を訪れた外国人旅行者は約158万8,000人で、前年同月比3.6%減となりました。

1月から5月までの累計は約725万3,000人で、前年同期比1.4%減です。

大阪の市場別推計を見ると、状況は全国とほぼ同様です。

2026年5月の大阪では、

と推計されています。

中国客は前年の約47万7,000人から約18万9,000人へ減少した一方、韓国、台湾、アメリカ、マレーシア、インドなどは増加しました。

大阪のインバウンド需要そのものが消えたわけではありません。

ただし、これまで中国人旅行者の比率が高かったホテルや、買い物需要、団体需要に支えられていた施設では、全国平均以上に影響を受けている可能性があります。


3.中国人観光客は、いつ戻るのか

2026年5月の中国からの訪日外客数は31万3,000人で、前年同月比60.4%減。

1月から5月までの累計でも171万7,400人となり、前年同期比56.2%減となりました。

JNTOは減少要因として、主に次の点を挙げています。

中国市場は人口規模が大きく、大阪との親和性も高いため、中長期的には回復余地があります。

ただし、ホテルの予算や販売計画においては、早期回復を前提にするのではなく、2026年は中国需要が低い状態が続くケースを基本シナリオとすることが安全です。

そのうえで、日中関係の改善、航空便の復便、団体旅行の再開が確認された段階で、販売在庫や広告投資を引き上げる二段階の戦略が必要です。

中国市場は「捨てる市場」ではありません。

一方で、現時点では「戻るまで待つ市場」でもありません。

維持しながら依存しないことが重要です。


4.大阪のホテルが取るべきエリア別戦略

大阪市内でも、立地によって取るべき対策は異なります。

一律に値下げしたり、すべての国に同じ商品を販売したりするのではなく、エリア特性に合わせた戦略設計が必要です。

なんば・心斎橋エリア

なんば・心斎橋は、インバウンド需要が強い一方で、ホテル、ホステル、民泊の供給も多く、競争が非常に激しいエリアです。

今後は中国市場だけでなく、韓国、台湾、香港、東南アジア、欧米豪への販売強化が必要です。

特に重要となるのは、

です。

このエリアでは、単純な最安値競争ではなく、口コミ、写真、立地の見せ方、予約前の安心感が予約率を左右します。

梅田エリア

梅田は観光需要に加えて、法人、出張、MICE、欧米豪、国内客を取り込みやすいエリアです。

重視すべき対策は、

です。

梅田では稼働率だけを追うのではなく、ADRとRevPARを重視した販売が求められます。

心斎橋周辺の特殊立地・周辺エリア

駅前や大通り沿いではない施設、繁華街の外縁部にある施設、住宅地に近い施設では、中心部と同じ売り方をしても価格競争に巻き込まれやすくなります。

そのため、

など、中心部のホテルにはない特徴を明確に打ち出す必要があります。

「心斎橋に近い」だけではなく、中心部よりも広く、落ち着いて、複数名で泊まれるといった利用価値を伝えることが重要です。

関空エリア

関西空港周辺では、中国市場減少の影響を受けやすい一方、空港特有の需要があります。

今後は、

を明確なターゲットとして設定すべきです。

商品面では、

など、空港利用に伴う不便を解消するサービスが差別化につながります。

関空エリアは、観光ホテルとしてだけではなく、空港利用を支えるインフラ型ホテルとしての価値を高める必要があります。


5.FIT以外の売上をつくる方法

今後のホテル経営では、個人旅行客であるFITだけに依存すると、国際情勢、OTAの表示順位、価格競争、航空便の変化に左右されやすくなります。

安定した売上をつくるためには、BtoBや団体需要を組み合わせる必要があります。

法人営業

周辺企業、建設会社、メーカー、物流会社、航空会社、派遣会社などに対し、法人料金を提案します。

単にOTAより安い料金を提示するのではなく、

など、法人利用の手間を減らすことが重要です。

スポーツ・イベント団体

学生スポーツ、社会人チーム、大会参加者、ライブ・コンサート関係者などは、一定数の客室をまとめて確保できる可能性があります。

大型イベントだけでなく、地域大会や遠征需要を年間スケジュールで管理することが有効です。

教育旅行・研修需要

大学、専門学校、語学学校、企業研修、国際交流団体などとの連携も有望です。

価格だけではなく、安全性、多言語対応、団体チェックイン、共用スペースなどが選定条件になります。

国内外の旅行会社・DMC

海外の旅行会社、ランドオペレーター、DMC、国内の募集型旅行会社との契約により、FITとは異なる販売経路を確保できます。

特に中国市場が回復した際には、個人客だけでなく、団体や小規模グループの受け皿を準備しておくことが重要です。

地域連携商品

ホテル単体で販売するのではなく、

と組み合わせた商品をつくることで、宿泊単価と滞在価値を高められます。

これからは「部屋を売る」だけでなく、その地域で過ごす時間を商品化する視点が必要です。


まとめ

2026年のインバウンド市場は、単純な需要減少ではありません。

中国人観光客が大幅に減少する一方で、韓国、台湾、東南アジア、アメリカ、欧州など、多くの市場は成長しています。

大阪のホテルが今後取るべき方向性は明確です。

  1. 中国市場の早期回復を前提にしない(いつ回復してもいいように構えるだけでいい)
  2. 国・地域別に販売戦略を細分化する
  3. エリアごとに異なる宿泊目的を捉える
  4. 価格以外の選ばれる理由をつくる
  5. FIT以外の法人・団体・BtoB販路を育てる

市場環境が変わったとき、必要なのは以前の状態に戻ることを待つことではありません。

数字を正しく読み、販売先を分散し、施設の強みを再設計すること。

それが、これからの大阪のホテル経営に求められる対応です。


出典

日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数 2026年5月推計値」および、大阪観光局によるJNTO「訪日外客統計」と観光庁「インバウンド消費動向調査」をもとにした推計資料を使用しています。大阪の数値は、訪問率をもとに算出された推計値です。